離婚とは、紙一枚で終わる手続きだと思っていた。
だがそれは、双方が同じ方向を向いている場合に限られる――。
24年間連れ添った夫婦が、静かに、しかし確実にすれ違い、やがて法廷という現実に向き合うまでの記録。そこには、裏切った側の焦りと、裏切られた側の沈黙の怒りが、重く折り重なっていた。
どうしてこうなった離婚体験談
静かに壊れていった家庭
都内の分譲マンション。
48歳の会社員・健司と、46歳の専業主婦・美和は、24年という歳月をともに過ごしてきた夫婦だった。
一人息子も成長し、家庭は安定しているように見えた。しかし、その内部は、長年の疲労と諦念でひび割れていた。
決定的だったのは、健司の浮気だった。
「まじめで通っている夫」という評価は、皮肉にも一瞬で崩れ去った。
美和は激しく怒り、離婚を要求したが、話し合いの末、「息子が大学を卒業するまでは家庭内別居」という歪な妥協に落ち着いた。
同じ屋根の下で、他人のように暮らす日々。
言葉は消え、視線も交わらない。
家庭は「生活の場」ではなく、「感情を凍結させる箱」になっていた。
離婚届が受理されなかった日
家庭内別居から2年。
息子は大学を卒業し、就職した。
健司は、約束通り離婚届を役所に提出した――はずだった。
しかし、窓口で告げられた言葉は予想外だった。
「離婚届の不受理申立てが出されています」
不受理申立て。
それは、「離婚する意思がないため、離婚届を受理しないでほしい」という、強い拒絶の意思表示だった。
自宅に戻り、久しぶりに言葉を交わした夫婦の会話は、氷のように冷たかった。
美和は、すべてを知っていた。
健司に新しい女性がいることも、その行動の裏側も。
「私は、絶対に別れません」
その一言は、健司にとって宣戦布告だった。
有責配偶者という現実
健司は焦っていた。
なぜなら、家庭内別居の2年間で、再婚を約束した相手がいたからだ。
だが彼は知らなかった。
浮気をした側は有責配偶者として、原則、離婚を請求できないという現実を。
離婚調停。
家庭裁判所という無機質な空間で、健司は自分の過ちを説明しながら、同時に妻への不満も吐き出した。
だが、調停委員の言葉は冷静だった。
「奥さんが同意しなければ、離婚は難しいでしょう」
美和は、頑なだった。
理由は語られない。
だが、その沈黙の裏には、怒り、屈辱、意地、そして24年分の時間が渦巻いていた。
長期化する争いと、息子の言葉
調停は半年に及び、不成立に終わった。
残された道は訴訟。
時間も、金も、精神力も削られていく。
そんな中、健司は家を出た息子と向き合う。
息子は静かに、しかし核心を突いた。
「母さんが離婚しないのは、愛情じゃない。ただ、悔しいだけだよ」
その言葉は、健司の胸に深く突き刺さった。
争い続けることが、誰のためにもならないと、ようやく理解した瞬間だった。
健司は訴訟を取り下げ、別居を選んだ。
季節がまた一巡した頃、美和の方から離婚届が送られてきた。
まとめとアドバイス
離婚は、感情の問題であり、同時に現実的な「交渉」でもあります。
特に一方に裏切りがある場合、相手の怒りや意地は、理屈では動きません。
- 離婚は協議離婚が最も負担が少ない
- こじれた離婚ほど、時間とお金、心を消耗する
- 相手の怒りを鎮めるには、誠意を「形」で示す覚悟が必要
そして何より、離婚は「勝ち負け」ではありません。
人生を立て直すための、大きな選択です。
争うより、離れる。
奪うより、手放す。
その決断ができたとき、ようやく新しい春は、静かに訪れます。


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